ユーザーインタビュー - Vol.4
株式会社OFFICE TEC 代表 畑田 哲也 氏
本シリーズはドローン・カメラを活用するクリエイター/ビジネス事業者の生の声をお届けするインタビュー企画です。
第四回は、農業生産者であるかたわら、農薬散布用ドローンのスクールから販売、整備まで農業のドローン活用に関連する事業を幅広く行う 株式会社OFFICE TEC 代表 畑田 哲也 氏にドローンを使用するに至ったバックグラウンドやそのメリット、使用機材などについてインタビューさせて頂きました。
■まずは自己紹介を簡単にお願いします。
こんにちは、畑田哲也といいます。
現在は農業経営者として、北海道で約200町歩(=ヘクタール)の面積を耕作しています。
育てているものは、お米をはじめ、蕎麦や麦、大豆などです。
株式会社OFFICE TECという作業受託をメインに行っている会社を経営していて、ものづくり補助金(※1)が採択された際に、ドローン事業に参入しました。
農家であるため、もともとSUBARUのRPH-2や、ヤマハのFAZERなどのヘリコプターを飛ばしていました。特にFAZERは完成された機体だったためドローンなんて必要ないと思っていたのですが、1台購入してみてここまでできるのかと驚き、考えが変わりました。
それからはドローン事業に参入し、農薬散布用のドローンスクールの教官として指導したり、整備・メンテナンスを行なったり、機体を販売したり、あとはサービスなども行なっています。
サービスというのは、たとえばドローンを墜落させてしまった農家の方にうちの機体を貸しに行くといった内容です。その日に飛ばそうと思っていたのに墜落させてしまい使えなくなると、予定が狂って非常に困りますからね。
お客さんから「助かった」と言っていただくと、やっていて良かったと思います。
…といったように、農業に関するあらゆるドローン事業に興味を持ち、全部自分のところで賄えたら理想的だと思っていたら、それが現実になり今に至るという感じです(笑)。
※1…「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」。中小企業や小規模事業者を対象とした生産性向上のため開発や改善を行うための設備投資を支援する補助金。
■ドローンをはじめたきっかけを教えてください。
上記でも簡単に述べましたが、農薬散布でAgras MG-1(※2)を使ってみたのがきっかけです。ヘリでは撒けない剤をドローンで撒くことができたらいいなと思い使い始めました。
実際に使ってみるとヘリより安定するし、作物にダメージを与えないので、これはいい!と感激しましたね。
ヘリが“作物にダメージを与える”主な原因は、強すぎるダウンウォッシュ(※3)です。もちろんダウンウォッシュの強さは良い部分でもあるのですが、どうしても稲が風に揉まれてしまってダメージを受けてしまうんです。
その点ドローンは8枚羽なので、稲を傷めない程度のダウンウォッシュ。稲を倒していきません。逆に「ダウンウォッシュが少なくて根本まで(剤が)かからないんじゃないの?」ということを訊かれることもあるのですが、3~4年ドローンを使っていてヘリと遜色なく効果を発揮しているので、その点に関して問題はないと思っています。
※2…中国のドローン最大手メーカー「DJI」の農業用ドローン。
※3…ヘリやドローンが飛ぶ際の吹き下ろしの風のこと。基本的に機体の垂直方向へ気流が発生する。
■ドローンを使用している業務はなんですか?
ほぼほぼ農業での農薬散布です。
農薬散布以外だと、農業に関わる様々な業務に農業用ドローンを使用しています。先ほど言ったように、ドローンスクールの教官として育成にも携わっています。
リモートセンシング(※4)で使用できる機材も、もの補助で申請できるようになったので、来年からは自分のところでセンシングもやってみようかなと思っているところです。今はそのために積極的にセミナーなどに参加しています。
また最近は、PRになればいいかなと思い、稲刈りの様子や蕎麦刈り機の映像などを撮っています。空撮に関してはド素人なので、楽しむ程度ですが(笑)。
ドローンスクールの教官になろうと思ったきっかけは、僕自身が受けたMG-1講習でした。その時の教官が農家の方で、農家でも先生になれるのであれば僕もなりたいと思い、教官の資格を取得しました。
ヘリに携わっていたときから、ほかのオペレーター仲間が危険な操作をしているのを目の当たりにしていたこともあり、そういうことを少しでもなくしたくて教官になったというのも理由のひとつです。
なので、安全に関しては特に重点的に指導しています。
教科書には基本的な内容——操作の技術であったり、機械に関する点検についてであったり、そういうことしか書かれていないのですが、経験しないと分からない散布の基本とかをレクチャーしています。でないと、いざ飛ばしてみて事故を起こしてしまったら大変ですからね。
そういった意味でも、経験ある人が先生になるのが一番かなと僕は思いますし、僕がこれまで経験してきたことが教習に活かせているのではないかと思っています。
おかげさまで、これまで26人の生徒を輩出しました。生徒たちの散布一発目はできるだけ見に行くようにしています。楽しみだけどドキドキの方が大きいですね(苦笑)。
※4…ドローンで撮った映像で作物の生育状況や圃場の健康状態を把握し、データ解析を行う技術。
■ドローンの使用により、それらの業務はどのように良くなりましたか?
コストパフォーマンスが圧倒的に上がりました。
まず、導入コストがヘリだと1500〜1600万かかるのですが、ドローンの場合300〜400万ぐらいで購入できます。年間のメンテナンス代や保険代も3分の1ぐらいの値段で済んでしまう。そうなれば、ヘリ1台買うよりドローンを2台買った方が絶対に良いと僕は思っています。
散布箇所が集約されている場所はヘリの方がやはり効率良く作業できますが、障害物があったり飛び地が多かったりする場所はドローンの方が良いので、現在はヘリとドローンを使い分けています。
使った感想としては、ドローンもヘリに遜色ないほどの作業効率で業務が行えるということ。
集約された場所だとヘリが良いと言いましたが、60町歩も撒くとね、疲れるんですよ。ドローンだとそんなに頑張らなくても40〜50町歩はいけるので高効率だと感じています。
また、ヘリは電波を取りまとめている農協などに「飛ばしても良いですか?」っていう確認を取らなければならないのですが、ドローンの場合は電波の管理はいりません。そういう融通が効くのも楽なところですね。
あと今までできなかったことができるようになったという点では、みんなの集合写真をドローンで撮れるようになりました。畑の中にみんなで入って撮影するんです(笑)。
農村地区の風景も面白いのでドローンを飛ばして撮影しています。のどかで、都会に住んでいたら見られない景色で癒されますよ。
■主な使用ドローンはなんですか?
農業機がメインで、MG-1、T20(※5)、AC101(※6)です。MG-1ももちろん良い機体ですが、AC101に出会ってからはその性能の良さに惚れ込んで、今はAC101ばかり使用しています。AC101をはじめて見た時、ドローンはこんなに進化しているのかと驚きました。
※5…DJI製の大型農業用ドローン。
※6…NTTが運営するドローン開発会社『NTT e-Drone Technology』製の国産農業用ドローン。
■上記を使用する理由やお気に入りポイントを教えてください
他社製よりバッテリーのもちが良かったり、速度が一定だったりする点が大きいです。
海外製のものに関しては自分のスティック操作でスピードをコントロールしないといけないので、初心者の方たちは苦労する部分だと思うんです。スピードが一定でないと散布ムラが出てしまうので。
その点AC101はスティックをフルダウンにしてしまえば15・20km/hと速度が一定になるので、撒きムラがありません。初心者にはとても扱いやすい機体だと思います。
バッテリーに関しても、他社製品の場合、入り組んだ場所だとどうしても飛行距離が伸び、バッテリーを消費してしまい1フライト多くなってしまうんですね。それがAC101だと1フライトで完了できる場面が多く、そのロスがないのは非常にありがたいと感じています。
確かに海外製のドローンよりAC101は高いのですが、7年シミュレーション(※7)をみると、それほどでもないなって思うんですよ。
機体を片手で持ち運べる、バッテリーのもち、一定速度で散布ができる、これだけの魅力があれば正直安いもんです。
あと、やはりなんといっても国産という強み。国産ドローンの場合は、ここをこうしてほしいっていう声がちゃんとメーカーまで届きますからね。その後メーカーからきちんとした回答もありますし、そういった意味でも国産ってものすごくいいと思っています。
※7…農薬散布用ドローンの一般的な償却年数を7年と考えたシミュレーション。
参考ページ:
https://www.uavoom.com/pages/ntt-e-drone-technology-ac101
■主な使用周辺機器はありますか?もしあればおすすめやお気に入りを教えてください。
散布業には無線機や発電機が必需品なので、これらは必ず現場に持って行っています。
無線機は、スタンダード社製のVLM850A、発電機はワキタのHPG6500iSを使用しています。
あとはリモセンも始めたので、Core i9搭載のゲーミングPCを使っています。
スタンダード HP:https://standard-radio.jp/product/vlm-850a
ワキタ HP:https://www.wakita.co.jp/construction/meiho/hpg/hpg6500iS/
■将来のドローンや周辺機器に期待することはありますか?
AC101はNTTですから、せっかくならdocomoとコラボして5Gのドローンができたらすごく面白いなと思っています。
高さも地図も格段に精度が上がると思うので、僕はそこに期待していますね。
SIM化されて、1年契約でギガをどれだけ使うかでプランが選べたりとか、使ったときだけ費用がかかる農業用向けプランができたりとか、そういうものができてほしいです。需要あると思いません?(笑)
あとは、3プロポが一般販売できるようになることを願っています。
3プロポとは、操縦者が3人いる状態(メインオペレーター、サブオペレーター、薬剤係)で、それぞれ操縦権を切り替えることができる操縦方法です。たとえば、奥に林がある地形で、まずメインオペレーターが林まで飛ばしていって、そこからはサブオペレーターに操縦が切り替わり、最後は3人目のオペレーター・薬剤係に操縦権が移って、薬剤車から新しい薬剤と交換するといったことができます。1プロポだとほかのオペレーターが薬剤車のところまで行かなくてはならないので、ロスが多く非効率的ですよね。
その点3プロポは安全ですし、効率も良いということを、NTT e-Drone technologyさんに熱く訴えかけているので(笑)、3プロポが遠くない未来に当たり前になってくれたらありがたいですね。
株式会社OFFICE TEC 代表 畑田 哲也
生産者であるかたわらで、農薬散布用ドローンのスクールから販売や整備まで幅広く事業を行う。2013年に農地保有適格者法人「株式会社SEED」を設立。その後、2017年に「株式会社OFFICE TEC」を設立し、2019年からドローンビジネスに参入。地域密着から広域展開を目指し、活躍の場を広げている。
HPおよびオンラインショップ:https://seed-store.stores.jp/
Instgram:https://www.instagram.com/zhuseed/?hl=ja